小学校でも英語が必修科目になり、保育園や幼稚園の学習の一環に英語を取り入れている所が増えるなど、英語の早期教育が注目されています。

今回は、「うちの子、何も英語に触れていないけれども大丈夫!?」と焦ってしまうパパやママにぜひ読んで欲しい記事です。

獲得・習得する言語には「母語」と「外国語」がある

まず、人間が言語を習得する段階の根本にあるのが「母語」で、第一言語とも言われ、その人が生活する上でベースとなる言語の事です。私たち日本人の場合は、日本語が母語に当たります。

言語獲得の段階

子育てを経験している方なら既に当たり前、と思うかもしれませんが、赤ちゃんから幼児になる過程で、人間はどんどん言葉を話し始めます。喃語から意味のある単語へ、単語から二語文、三語文となります。この過程では、親が特に子供に対して言語学習を行わずにも、自然に子供は複雑な日本語の文法を理解して話していきますので、「母語獲得」=「第一言語獲得」と呼ばれます。

言語習得の段階

一方で、母語を習得している状態で他の外国語を学ぶ事は、「獲得」と区別して「言語習得」と呼ばれる事があります。これは、根本に母語の文法や理論を既に持っている状態で、他の言語を得ようとするからです。

日本人が英語を学ぼうとするのは、この外国語の言語習得=「第二言語習得」にあたります。

母語の領域を第二言語が超える事はない

英語を覚えたいのなら、まずは母語を習得する必要があるといえる、という考え方があります。これは、母語を既にベースとして持っているのなら、第二言語が母語の領域を超える事がないという考えです。

例えば、英語で「りんご」は”apple”ですが、これは母語であの果実の名前が「りんご」である事を知っている前提で覚えます。逆に考えれば、母語で「りんご」という名を知っていなければ、”apple”を覚える事はできないのです。

同時期に違う言語を一緒に学んでいくとどうなるのか

それでは、もしも母語と第二言語を併用して学んでいくとどうなるのでしょうか?

いわゆるバイリンガルの状態となりますが、この場合には母語と第二言語の逆転現象が起きる可能性があります。

つまり、英語が母語、日本語が第二言語となり、日本語も文法上での誤りはありませんが、ベースとなる母語が英語の為、日本語にあって英語にない表現の獲得が消失する可能性があるのです。

バイリンガルの人は敬語が使えない?

顕著な例がバイリンガルの人は敬語が使えない、という事です。日本語の敬語表現は、尊敬語・謙譲語・丁寧語からなりとても複雑です。

日本人ですら正しく使えていない場合がありますが、基本である「目上の人には丁寧語です・ますで話す」という母語の根本は理解しています。ところが、母語が英語である日本人の場合、敬語の理論が母語の根本にない為に、目上の人に対しても、いわゆる「ため口」で話してしまう、という現象が起きるのです。

また、同時の二語獲得は、母語の獲得が同年代よりも遅れる傾向がある、という話を講義で聞いたことがあり、先日そのケースを実際に目にしました。

とあるテレビ番組で、幼少期から英語に触れていて既に英検2級も取得済みの小学校6年生の男の子の事をテレビで特集しているのを観た事があります。

けれども、最後にテレビ番組のスタッフがその男の子に対して「将来何になりたいですか?」と聞いた時に「将来って何?」と聞き返したのです。当然、小学校6年生なら将来という言葉も理解しているはずですが、番組のスタッフが「大人になったら…」と言い直して、やっと男の子は質問の意図を理解したのです。

以上の事から、同時に同じ言語を習得していったとしても、全く同じ言語の能力を得るのではなく、どちらかがベースとなる母国語となり、どちらかが第二言語になるという事が言えます。

母語をしっかり覚えておけばメリットも

幼児期に英語を焦って勉強させるのではなく、まずは母語である日本語をしっかり覚えておいた方が良い、というのは色々なメリットもあります。

代表的なのが、根本となる表現能力が身に付きますので、今後、英語を習得する過程においても、豊富な日本語のボキャブラリーの中から色々な言い換えができる事です。

例えば、初対面の外国人の方が、とても可愛い女の子を連れていたとします。女の子のお名前もとてもキュートで、ぜひその名前の由来を知りたいと思い、英語で「その子の名前の由来を教えて下さい」と聞くとします。

「その子の名前の由来を教えて下さい」は、“Please tell me the origin of her name.”ですが、ここで「由来」って英語で何!?となってしまうと、当然聞く事はできません。

けれども、日本語の能力が高ければ、瞬時に他の表現に言い換える事ができますので、「その子の名前の意味を教えて下さい」”Please tell me the meaning of her name.”「どうしてその名前を付けたのですか?」”Why did you give her this name ? ” 「その子の名前の意味は何ですか?」”What does her name mean ?” など、「由来」という英語を知らなくても、他の言葉で無事に女の子の名前の由来を聞く事ができるのです。

英語の早期教育なら、「聴く」と「話す」をポイントにする

とはいえ、英語の早期教育自体を否定するのではなく、幼児の内から英語に触れる事で身に付くメリットもあります。

それは、英語を耳から聞かせる、そして話させる事です。母語を既にある程度習得している場合、今度は母語にない発音の習得が難しくなります。日本人が英語の複数ある“a”や”th”発音に苦戦するのが顕著な例です。

一方で、幼児期は母語の獲得過程からも分かるように、耳からの情報吸収がとても優れている時期です。ですので、英語の早期教育で一番適しているのが「英語を聴かせる」事になります。そして「話させる」事によってアウトプットとなり、発音と英語のフレーズの習得に繋がるのです。

がちがちに英語教室に通わせなくても、好きな英語の歌のCDを流したり、簡単な挨拶を親子で言い合ったりするだけでも十分です。親御さんが既に英語の勉強をしているなら、英会話教材のCDなどを流して勉強している姿を見せるだけでも効果あると言えます。

まとめ – 「英語嫌い」にしないのが一番大切

これまで、第二言語となる「英語の習得」にはまず母語である日本語の獲得が大切である事、そして早期教育で英語を学ばせるなら聴く・話すがよい、という事に触れました。

これらを踏まえて、一番英語習得の弊害となってしまうのが「英語を嫌いになってしまう事」です。せっかく日本語の能力が高くても、幼い時から英語に触れている環境であっても、本人が「英語」そのものを嫌いになってしまうと、習得を拒否してしまい、大きな弊害となるのです。

早期英語教育も大切ですが、子供が嫌がった時には無理強いしないようにするのも大切です。英語を覚えるのに一番大切なのは、本人のやる気です。本人がやる気になれば大人になってからでも十分英語の習得は可能です。早期英語教育では、英語を覚えさせる!という事に躍起になるのではなく、英語に親しませる、日本語以外にもこんな言葉がある、と学ぶ環境を作ってあげる事が大切なのではないでしょうか。